入社初日に運転手に必ず伝えることがある。
45年前、家業の鋼材屋に入った私に、重大事故に接してきた父から安全についてとうとうと聞かされたこと。
①「鋼材を吊り上げたワイヤーは何時か必ず切れる」
ワイヤーは切れるまで使いつくすので、ワイヤーが切れないと思うなと。
たまにクレーンで吊り上げた商品の下をくぐる人がいるが絶対にやるなと
②トラック荷台で積みこむ時、自分の逃げ場を確保すること
ホイスト操作を間違えたり、クレーンが流れると、
事前に逃げ場を確保してないとトラックのアオリと商品に挟まれギロチンになる。
この二点は絶対に守れと言われた。
安全帽にこだわった父は、現場での着用にとても厳しかった。
ある時、ヘルメット着用のタイミングで運転手と議論になった。
父が出した結論は、就業時間中はヘルメットは終始かぶれという事だった。
運転中もヘルメット、事務所の中でもヘルメット、入社したがばかりの私は、職場以外で社員とすれ違っても誰か分からなかった。なぜならヘルメットの脱いだ顔を見た事が無かったから。社員旅行の時、社員の素顔は新鮮だった。そんなに安全に拘った父だが、私の兄は入社数年目に現場で大けがをして2年間入院、40年経た現在もその時の後遺症で足を引きずっている。
運送部門を独立させて、総合トラックを作りドライバーを移籍した時から、運転中のヘルメット着用のルールは撤廃した。
そんな環境に育ったので私なりに新人運転手に、①と②加えていくつか伝える。
③商品が崩れそうになったら、絶対に荷崩れを防ごうとするな。
手で持てないからクレーンやホークで荷物を動かしいる。クレーに吊られた商品は、手を上から添えるだけ。物損しても「事故」で終わるが、物損を防止しようとしてケガをしたら「事件」になると。鋼材は高額商品も少なく、ほとんどが代替えがきくので、物損を恐れるなと。
④ヘルメット/皮手/安全靴は、絶対に命や体も守る。
ヘルメットのあご紐を止めていなかった為、炎天下に荷台から転倒し頭部と強打し命を落とした社員がいる。葬式に参列した時のくやしさは忘れない。ヘルメットの僅か数センチつばがどれほど目を守ってくれるか。皮手はただ分厚いだけでなく、いざとなったらゴム手と異なり手がすっと抜ける。現場で私の不注意からホークリフトに足を踏まれたがある。安全靴の先の鉄板がつぶれ足が抜けなかったが、指は骨折しないで済んだ。
家内にも運転中に伝える。トラックに高く積まれた商品も、走行中に崩れることがある。平ボディが前に走っていたら車間を取れ、平ボディやトレーラーを追い抜く時は息を止め細心の注意を払って一機に。高く積まれた商品を押さえているのはたった一本のラッシングベルトやワイヤー、いつ切れるかわからない。前を走っている運転手は新人かもしれない。運転手に荷締めの国家資格もない。交差点を右折する際、鉄板を路上にバラまいた協力会社の運転手、事故後、運転手に事情を聴くと「近い距離なので荷締をしなかった。カーブを曲がる時、わだちにハマってバランスを崩した」と、あきれてしまった。浦安鉄鋼団地近辺で、荷締めをしないで入っている青ナンバートラックを見かけ該当の運送会社に通報したが、配車係の対応は「それが何が悪い」と言った応対だった。だから営業トラックだから安心安全は、絶対にないと。