労働基準監督署の相談窓口で監督署の女性スタッフが、「あなたは何をしたいのですか」「どの様な意味ですか」と声を荒げていた。「賃金不払い」と言う声も聞えて、賃金が問題になって経営者が相談窓口にきているんだろうなと想像もした。それまでは背中向きで聞いていたが、体の向きを変え相談内容を盗み聞ぎすることに、と言うか署員の声が大きいので大体は聞き取れてしまうのだが。
「あなたは何をしたいのですか」の質問で、相談者は再度説明し始めたので状況が把握できた。建築会社に仮採用され一日目にケガを負ってしまった。会社から日当8000円の支払いを受けたが、採用されることが無かった。ケガで働けないので、今日までの分は賃金不払いであると。相談者を改めて見ると、ジャージ上下でサンダル履き、無精ひげ、ガタイは大きくちょっとハンサムだが、携帯電話片手に足を組み態度はすこぶる悪い。40歳位かな。見る限りはケガの箇所は見当たらない。
仮採用や本採用され、雇用条件の隙間をついて企業側から不当に賃金を要求し、複数の会社を渡り歩くヤカラがいると労使トラブルのセミナーで聴いたことがある。実際に知り合いの運送会社もその手の被害にあった。窓口の彼は労基から企業に指導してもらう作戦の様だ。決め付けもできないが、十中八九その手のヤカラ。本物に遭遇。強盗や詐欺は刑事罰に問われるが、この手口でお金を手にしても未遂に終わっても、論点の差だけで刑事罰に問われることはない。企業も事なきを選び、弱点があるとすると全社員への波及を恐れ、そこそこの金額は支払いがち。ブラックリストも存在しない。でも嬉しかったのは、署員が必死に声を荒げて、相手の矛盾を探して戦ってくれていることだ。労働基準監督署は呼び出しを受けるところではなく、社員の為・会社の為に事前に相談に行く所だと再認識する。